【Tokyo Pops編】

Casse-croûte et delicatessen  1/2

9 août 2017

前回の原宿の若者ファッションに比べ、ワインやチーズや紀伊国屋なら、我々の日常じゃないか、よく知っているよ、と今回は楽勝かと思いきや、まさかの試訳者が後半箇所ギブアップ。

一体どんな難関だったのでしょう?!

 

 

 

<原文>Casse-croûte et delicatessen 1/2

 

Olivier passe nous voir avec une excellente bouteille de Bordeaux, breuvage précieux et rare en cet endroit du globe1.  Un Brie de Meaux2 et un Roquefort Société3 complètent le menu4.

Les Français de Tôkyô savent tous5 où dénicher6 de très bons fromages.  Il suffit d'aller en fin de semaine faire les promotions de l'épicerie fine Kinokuniya, le temple7 de l'alimentation de luxe, en bas de8 l'avenue Omote Sandô.

A cette occasion, il est quasiment de l'ordre du rituel d'utiliser9 le lentissime ascenseur hydraulique dans lequel10 une japonaise en uniforme annonce, dans un langage des plus respectueux, chaque ouverture et fermeture des portes. J'ai souvent été tentée de saluer l'étrange employée d'un sourire compatissant.  Mais, les yeux rivés au plancher, elle est toujours restée imperturbablement concentrée sur son chuchotement et sur les vénérables pieds poliment entassés au fond de l'ascenseur11.

Les Japonais – qui ont pourtant eux aussi leur produit affiné local, le soja fermenté ou nattô – ne raffolent pas de nos bleus et autres spécialités parfois proches, il faut le reconnaître, de la moisissure12.  C'est pourquoi après avoir été exposées à prix d'or dans les vitrines du rayon fromager, ces curiosités olfactives et gustatives sont reléguées avec les produits proches du seuil fatidique de la péremption.

En présence de telles aubaines qui cumulent affinage parfait et prix sacrifié, il n'est pas rare de croiser un compatriote tombé en état second13 devant sa madeleine de Proust.  Le nez enfoui dans un Chabichou, le pouce enfoncé dans la crème d'un camembert, le palpeur n'a que faire des remontrances que pourrait lui14 infliger le chef du rayon sorti tout droit, croirait-on, du Ministère du protocole impérial15.

 

 

<試訳>カスクルートとデリカテッセン 1/2

 

 オリビエは日本1では珍しい貴重で上質なボルドーワインを持って私たちに会いに来た。

ブリ・ド・モー2とロックフォールチーズ3で完璧なメニュー4となった。

 

東京に住むフランス人はみんな5美味しいチーズ屋さんの場所を知っている6。高級食材店である、紀伊国屋へ週末の特価品を買いに行けばいいのだ。紀伊国屋は、表参道通りの端8にある(en bas de)高級食材の神社7ともいえるような店だ。

 

こういった機会には、オリビエはほとんど決められた慣習9かのようにのんびりした水圧(油圧?)式のエレベータを使う。エレベータの中には10、制服を着た日本人女性が最上級の敬語で扉の開け閉めをアナウンスしてくれるのだ。

私はこの不思議な従業員に対して思いやりを持った笑顔で挨拶をしようと試みたことが何度もある。しかし、視線が床に固定している彼女は動じることなく、囁きとエレベーターの端っこに丁寧に足を揃えることに集中していた11

 

日本人は、自分たちの国にも発酵大豆(納豆)のような熟成した食品があるにも関わらず、ブルーチーズやそれに似たような特産品を好まない。カビだと認めなければならない12*。

*(試訳者はこの部分で悩み、さらにその先について「良く分らん。誰か代わって頂戴」と白旗を上げた)

 

 

 

部員A

部員C

部員E

部員B

部員D

部員A

編集長

エリック

部員C

部員D

エリック

部員A

1. cet endroit du globeは日本のことですね。直訳すれば、「地球のこの場所」ですけど、何か他の言い方はありませんか。フランスを遠く離れてというニュアンスが欲しいところです。

 

 

「原文にはありませんが、フランスから遠く離れた、という挿入句をいれたらどうでしょう?。

 

チーズの話ならお任せ下さい。2. Brie de Meaux、3. Roquefort Société、最後の段落にあるChabichouも、いずれもチーズの名前ですね。Brie de Meaux はイル・ド・フランスで作られる白カビタイプRoquefort は南仏産羊乳から作られる青カビタイプ、つまりブルーチーズで、Sociétéというのは会社名です。日本で例えて言うなら雪印の○○チーズみたいなものですかね。Chabichouはちょっと馴染みがないけれどロワール地方で作られる山羊乳のチーズです。

 

 

4. complètent le menuは文字通り訳せば「献立を完璧にした」ですけど、ボルドーのワインとチーズだけで献立とは言えないでしょう。

パンとチーズとワインがあればそれで十分ということですね。日本人には白いご飯と漬物と味噌汁がそれに当たるのかな。

 

 

 

それなら「ブリー・ド・モーがあり、ソシエテ印のロックフォールがあり、これで申し分ない」あるいは「もう何も言うことはない」としましょうか。

5. tousは「東京に住んでいるフランス人なら全員」なのか、それとも「チーズを買える場所なら全て」なんでしょうか?

その後で「紀伊国屋へ行きさえすれば良い」と続いているので前者でしょう。

 

 

6. dénicherですが、辞書には「(努力の末に)…を見つける、探し出す」という意味が載っています。ニュアンスは分るのですが、うまく日本語になりません。

 

 

7. le templeは寺院とか神殿というより殿堂の方がしっくりきませんか。

 

 

 

 

8. en bas deは低いという意味ではなく、道を下った、つまりずっと先ということでしょうね。まあ、実際の表参道と紀伊国屋の位置関係を知っているから分るけれど。

 

9. ilを友人のオリビエと解釈しているけれど、このilは不定詞のilで、d'utiliser以下を受けているのだと思います。

 

10について、このケースに限らず、一般的に翻訳をするとき、つい関係代名詞を後ろから訳していく傾向がありますよね。個人的には受験英語で身に染みついた間違えないためのテクニックのように思います。でも、文が長くなればなるほど、意味の取りにくい訳文になってしまいます。プロの方たちは関係代名詞を含んだ文はそこで切った方が分かりやすいということを良く言います。

 

 

11のこの足はエレベータガールのものと思い込んでいたわたしたち3人でしたが、vénérable(尊い)、 entassé(積み重ねた、込み合った)、 au fond(奥に)という単語がひっかかり、これはエリックに確認してみたいです。

この足は、エレベータに乗っているお客さんのことです。もし、エレベータガールの足であれば、

les piedsではなく、ses piedsになりますね。

 

目から鱗!恐れいりました!

 

12の箇所を試訳した人が悩んだのも判る気がします。「(フランス人としては)これをカビだと認めざるを得ない」とも解釈できます。でもこのil fautを「に違いない」と訳すべきと考えると「(日本人は)これをカビだと考えているに違いない」と解釈する方がすっきりしませんか?

「(フランス人として)たしかに、カビの仲間だと認めざるを得ない」という一般論です。

Parfois proches de la moisissure 「確かに、チーズはカビの仲間」ですからね。

13. état secondは第ニ身分、つまり革命前のフランスで、三部会の第二部を構成した貴族身分のことだと思ったのですが、フランスの辞書サイトに「être momentanément déphasé」という意味が載っていました。déphaséは現実とずれた、状況に合わない、現状に疎い、他人とかみ合わないという意味もあります。

 

 

正気を失った、という意味もありますよ。

 

いろんな場面で使いますが、他の世界に行ってしまっているようなボーッとしている感じです。

14. luiは、ここでは客のことですね。

15. Ministère du protocole impérialを宮内庁儀典係りと訳してみましたが、要は慇懃ながら厳しく「お客様、商品にはお手を触れませんように」ときっぱり叱られる羽目になるということですかね。

皆さんそろそろ、お茶はいかがですか、、?

 

部員B

部員D

部員A

部員C

部員E

部員B

部員ABC

部員ABC

エリック

部員A

部員E

編集長

問答スタート!!

<部員による検討結果>

カスクルートとデリカテッセン 1/2

(フランスから遠い)この地では、めったにお目にかかれない上等なボルドーワイン1本持ってオリビエがやってきた。そこにブリー・ド・モーとソシエテ社のロックフォールが加わり、もうこれ以上言うことはない。

東京で暮らすフランス人は誰でも、どこに行けば美味しいチーズがあるかを知っている。表参道の端にある高級食材の殿堂、紀伊国屋で週末の安売りを狙えばいいのだ。

そのときは、いつもユックリズムな油圧式エレベータを利用するのがおきまりだ。エレベータには、ひとりの制服を着た日本人女性が、扉の開閉のたびに、丁寧な言葉遣いでアナウンスをする。フランスでは見かけない(エレベータガールという)不思議な仕事をする店員に、わたしは今までに何度も笑顔で挨拶をしようとしたが、視線を床の方にしっかりと向けて、常に、囁くようなアナウンスとエレベータの奥に詰め込んだお客様の大事な足に集中している。

 

 

 

 

すでに次回分の翻訳を進めている部員たち。先日の日曜日には久しぶりにスカイプにて、カロリーヌさんと直でお話をしていました。頼もしい新入部員も初対面で盛り上がりました。

次回もお楽しみに!

 

などなど、、、問答を経て。

↓↓↓

(日本にも)大豆を発酵させた納豆があるのに、日本人は、フランスのブルーチーズも他のチーズも夢中にはならない。確かにカビの仲間であることは認めなければならない。というわけで、チーズ売り場のショーケースに高価な値段で並べられたその末に、香りと味の極上品が、お仲間と共に賞味期限切れとなって売り場から追い出される宿命を背負っている。

完璧な熟成と破格値という一挙両得のおかげで、プルーストの(失われた時を求めての)マドレーヌを前にした時と同じように、売り場で気もそぞろになった同胞たちと出くわすこともめずらしいことではない。シャビシューに鼻を埋め、カマンベールに指を突っ込むような仕草をすると、宮内庁儀典係りからすっとんできたような売り場主任から(慇懃に)注意されてしまうのが落ちだ。

 

訳注:

今回、原文の仏語には書かれていなくても、分かりやすくするために( )で補足をしています。

 

 

 

 

もう一度、原文・試訳を読む

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