【Tokyo Pops編】

22 janvier 2018

Pistes blanches et œufs de saumon

再び著者の日本滞在時のエピソード。前々回に掲載した、京都への旅から帰った著者は、すぐに新しいアルバイト先である、北海道サホロにある地中海クラブへと向かいます。どうやら著者の心に残ったのは景色より胃袋の思い出のようです。

 

 

<原文>Pistes blanches et œufs de saumon

 

De retour à1 Tôkyô, je prépare à nouveau2 ma valise pour rejoindre les grandes étendues de neige du Hokkaidô et l'équipe d'animation du Club Méditerranée du village de vacances Sahoro.

 

Dans cette petite Sibérie nipponne où la température descend parfois jusqu' à -15 degrés, je goûte aux plaisirs3 du quotidien4, bien au chaud5, calfeutrée6 à l'intérieur.  Je me souviens avec délice de la saveur du crabe du Hokkaidô, servi à tous les repas, de la texture fraîche et croquante des précieux ikura, les œufs de saumon oranges et translucides, au calibre de perles de culture, irrésistibles aux papilles7.

 

Une autre découverte gastronomique de ce séjour fut celle du petit déjeuner traditionnel: un œuf cru cassé sur le sempiternel8 bol de riz, accompagné du gluant nattô. Pour venir à bout de9 ce fil de soja fermenté qui s'étire comme un chewing gum, on doit exécuter de rapides moulinets avec ses baguettes.  Vaincu par la force centripète, le fil de nattô se sépare enfin et retombe en partie dans le bol. Manger ce plat, de bon matin, maîtriser cette gestuelle - idéale pour un pictionnary – participe de l'initiation à la culture japonaise et fait se soulever plus d'un sourcil parmi les témoins de cette prouesse!

 

Ces quelques souvenirs culinaires, à la fois fastueux et modestes, font partie de la malle de trésors que j'emporte avec moi quand je quitte le Japon en mars 1990.

 

 

 

 

<試訳>スキー場とイクラ

 

東京に戻って1わたしは、またもや2旅支度をした。北海道の広大な雪景色と出会い、地中海クラブのサホロのヴァカンス村のスタッフと落ち合うためだ。日本のこの小さなシベリアで時には気温がマイナス15度に下がることもあるけれども室内は密閉されて6とても暖かく5毎日4快適に過ごせた3

 

思い出すだけでもうれしくなるのは毎食ごとに出された北海道のカニの味わいと貴重なイクラのプチプチした新鮮な食感だ。イクラとはオレンジ色で半透明の鮭の卵、大きさは、養殖真珠くらいの直径があり、このプチプチの卵の魅力には逆らえない7

 

北海道滞在のもう一つの料理の発見は、伝統的な朝食だ。ふだん使いの8ご飯茶碗に生卵を混ぜたたまごご飯と、ねばねばした納豆を混ぜる。チューインガムのように伸びる発酵した大豆を糸状にして、からめとるには9箸で素早くぐるぐると回さなければならない。求心力で征服された納豆の糸は、ついには、離れ離れとなり茶碗の中にポトリと落ちる。朝早く、この料理を食べることと、この所作を完璧にこなすことは、実際にうまくできるとは限らない。この行為は日本文化入門の特徴を帯びるが、見物人たちの中にはあっけにとられる人もいる。

 

豪奢であり質素でもあるこのようないくつかの料理の思い出は、1990年3月に日本を去るときに私が持ち帰る貴重なコレクションのトランクに入ることだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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編集長

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筆者の文章の癖というか、文体の特徴に慣れてきたお陰でしょうか、以前ほど頭を抱えることがなくなってきたように思います。むしろ、知っているつもりの単語が「本当にそういう意味で使われているのか?」と、もう一度辞書を引いてみるとアレッと思うことがでてきます。

例えば?

3. aux plaisirsや4のdu quotidienです。なぜje goûte le plaisir quotidienではないのか。aux plaisirsなり、du quotidienでなければならないのかが分らない。à plaisirには「好き勝手に」という意味がありますが、aux plaisirsはそれと同じなのか、違うのか。また、quotidienの形容詞と名詞形には何か別の意味合いとかニュアンスがあるのか分りません。

要ネイティブチェックでしょうか?

その他には?

1. De retour àは「戻るとすぐに」なので問題ありません。2のà nouveauはde nouveauとは違うの?

エリックに来てもらって、聞いてみましょう。

まず、à nouveauとde nouveau はほとんど同じと考えて構わないと思いますけど、あえて言えばà nouveauはà une nouvelle façonで de nouveau はde la même façonという違いでしょうか。つまり à nouveauは「改めて、新たに」、de nouveauは「再び、もう一度」です。

 

今回の場合はどちらでしょう?

 

京都へ行く支度と北海道へ行く支度では違うから「もう一度」じゃなくて「改めて」でしょう。

次にgoûter à には~の楽しさを知るという意味があります。それからquotidien と du quotidien の違いは「日々の」と「日常的な事柄」との違いみたいなもので、微妙だと思います。日本語だと、どう違うように表現できますか?

 

「日々の」だと毎日繰り返されること、「日常的な事柄」だと、いつでも起きる可能性のある普通のことという感じかな?でもどちらでもそれほど違わないようにも思えます。

ということは、ここでは筆者はヴァカンス村でその日その日に起きることを楽しんでいたと言いたいのですかね。

 

5. au chaudにもちょっとだけ混乱したのですが、これは「暖かい状態に、暖かい場所に」という意味なので、試訳通りで良いのでしょうね。ちょっと砕けた言い方をするなら「ぬくぬくと快適に過ごした」でしょうか。

 

試訳では6のcalfeutréeを「建物が密閉されて」としていますが、これは筆者が「閉じこもった」だと思います。「外は気温マイナス15度になることもある。でも、私は建物の中に閉じこもってぬくぬくと暖かく過ごしていた」

 

Je me souviens avec déliceはどういう意味なんでしょう。se souvenirにはdeが続くと思うのですが。その後のイクラについての部分はetで繋がなくても良いのでしょうか?

 

avec déliceは括弧に入れて考えたら?Je me souviens (avec délice) de la saveur du crabe du Hokkaidô, servi à tous les repas, de la texture fraîche et croquante des précieux ikura, となって「蟹とイクラを(美味しかったなぁと)懐かしく思い出す」となるのではないかと思います。ここで蟹とイクラは同格で並列されていると思います。

 

7. irrésistibles aux papillesのpapilleが分りません。辞書には【解剖】乳頭:粘膜面にある小さな乳首状の突起となっています。

これは舌の表面のざらざらしたところでしょう。ネットで「舌 乳頭」で検索してみると、ブリタニカ国際大百科事典小項目事典に行き当たりました。これは舌乳頭(ぜつにゅうとう)と呼ばれる部分で、舌背の粘膜にある多数の微小な小突起の総称だそうです。もう少し意訳して味蕾(みらい)でもよいかと思います。つまり訳としてはイクラを舌で押しつぶすとプチプチと潰れるということでしょう。

 

いや、この美味しさには抵抗できないという意味になると思います。

 

あ、そうか、その前にcroquanteとあるから、プチプチと潰れる様子はそこで既に説明されているんだ。試訳通りで良かったわけですね。

8. sempiternelは「いつもの」ということなのですが、普段使いのお茶碗ではなく、朝食は毎朝々々御飯をお茶碗で食べていたということなのでは?

 

そうですね。フランス人スタッフである筆者が朝食にクロワッサンにカフェ・オ・レではなく、いつも卵かけ御飯と納豆を食べるので、周囲から注目されてちょっと得意になっていたんじゃないでしょうか。

 

 

確かに日本人は外国人が上手に箸を使えたり、納豆を食べたりすると驚く傾向がありますよね。

 

ちなみに僕は納豆が好きです。

 

9. venir à bout deは「(苦労して)…に成功する、をやり遂げる、打ち勝つ」ですが、何に成功するのか、これだけでははっきりしないような気がしますけどねえ。

 

 

納豆を食べる前にかき混ぜて糸を引かせる作業が必要だから、それを一所懸命にやり終えて、「準備が整った。さあ、食べるぞ」ということではないでしょうか。

 

 

pictionnaryというのはボードゲームの一種と聞いたことがありますけれど、どういうゲーム?

 

2人一組のチームの対抗戦で、チームの一人が引いたカードに指定されたお題を手早く絵に描いて、パートナーはそれが何だか当てるというゲームです。ですからここでは、朝一番に納豆を手早くかき回すという運動は、きっと手を素早く動かす必要のあるpictionnaryの練習には最適なものだろうと言っているのだと思います。

 

 

納得

ところでタイトルのpistes blanchesですけど、どう訳しますか?スキーリゾートはフランス語ではstation de skiですけど、pisteに当たる日本語は何と言いますか?

 

ドイツ語から由来したゲレンデと言っていますね。

スキーのコースの難易度を色で表していたように思うので、それかなと思ったのですけど。

 

 

フランスにいた時スキーにも行きました。その時の記憶で言うと、pisteはスキー場の中で圧雪して整備されたコースのことで、初級=青、中級=赤、上級=黒と案内板に色分けされていました。白で示されたコースはないので、ここでは「白いゲレンデ」と訳せばいいのでは?

 

 

 

最後のパラグラフですけれど、la malle de trésorsは移動に使うトランクというより、何か海賊の宝箱みたいなイメージなのではないでしょうか?日本の思い出をぎっしり詰めた宝箱の中身のひとつに北海道で味わった美味があるということだと思えます。

 

 

竜宮城から持ち帰る玉手箱のような?

それじゃあ、開けたらアウトじゃない。

部員B

部員C

部員A

エリック

部員D

部員A

部員C

部員C

部員A

エリック

部員C

部員D

部員A

部員B

一同

部員C

部員D

部員B

問答スタート!!

などなど、、、問答を経て。

↓↓↓

<部員による検討結果>

白いゲレンデと赤いイクラ

東京に戻り、改めて旅支度をした。北海道の広大な雪景色と出会い、地中海クラブのサホロ・ヴァカンス村のスタッフに合流するためだ。日本のこの小さなシベリアでは時として気温がマイナス15度になることもある。でも、わたしは建物の中に閉じこもってぬくぬくと暖かく、その日その日を楽しく過ごした。

 

思い出すだけでもうれしくなるのは毎食ごとに出された北海道のカニの味わいと貴重なイクラのプチプチした新鮮な食感だ。イクラとはオレンジ色で半透明の鮭の卵、大きさは、養殖真珠くらいの直径があり、このプチプチ卵の美味しさには抵抗できない。

 

北海道滞在のもう一つの料理の発見は、伝統的な朝食だ。わたしは毎朝、茶碗によそったご飯に生卵を混ぜた玉子ご飯と、ねばねばした納豆を混ぜる。チューインガムのように伸びる発酵した大豆を糸状にして、からめとるには箸で素早くぐるぐると回さなければならない。求心力でからめとられた納豆の糸は、ついには、離れ離れとなり茶碗の中にポトリと落ちる。朝早く、この料理を食べることと、(ピクショナリ※の稽古には理想的な)この所作を完璧にこなすことは、日本文化入門編だが、見物人たちをみなびっくりさせることになるのだ。あるときは贅沢であり質素でもあるこのような料理の思い出のひとつひとつは、1990年3月、日本を去るときに持ち帰る宝箱に詰め込む貴重な財宝のひとつになることだろう。

 

※訳注 pictionnary:ボードゲームの一種。2人一組のチームの対抗戦で、チームの一人が引いたカードに指定されたお題を手早く絵に描いて、パートナーはそれが何か当てるというもの。ここでは、朝一番に納豆を手早くかき回すという運動は、きっと手を素早く動かす必要のあるpictionnaryの練習には最適なものだろうという意味か?

 

 

昨年末のエコール・プリモ忘年会での名司会ぶりで、皆のこころを掴んだエリック。

翻訳問答でも質問に答えるだけでなく、的確な意見までだしてくれて、部員たちにすっかり頼りにされています。納豆のおいしい食べ方も心得ているなんて!

もう一度、原文・試訳を読む

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